顎を広げる小児矯正は本当に必要?拡大床(床矯正)のメリット・デメリットと注意点
2026年01月18日
お子さんの歯並びを見て、「将来、歯列矯正が必要になるかもしれない」と不安を感じている親御さんは少なくありません。
特に最近では、「顎を広げる小児矯正」や「拡大床(床矯正)」という治療法を耳にする機会が増えています。
しかし、本当にこの治療は必要なのでしょうか?
実は、拡大床を使った治療にはメリットもあればデメリットもあり、すべての症例に適応できるわけではありません。適切な判断をするためには、治療の仕組みや効果、そしてリスクをしっかり理解することが大切です。
この記事では、東京歯科大学で学んだ知識と臨床経験をもとに、顎を広げる小児矯正の実態を詳しく解説します。拡大床のメリット・デメリット、適応症例、注意点まで、親御さんが知っておくべき情報を網羅的にお伝えします。
小児矯正で顎を広げる理由とは
小児矯正で顎を広げる最大の理由は、永久歯がきれいに並ぶためのスペースを確保することです。
近年、子供の歯自体が大きくなる傾向にあり、永久歯に生え変わった際に従来よりも広い顎が必要になりました。上顎の成長は10歳から12歳程度で決まってしまうため、このタイミングで治療を行うことが重要なのです。
顎が小さいまま放置すると、永久歯が並びきらずに歯列がガタガタになったり、前歯が押し出されて出っ歯になったりする可能性があります。こうした問題を未然に防ぐために、成長期のお子さんに対して顎を広げる治療が提案されるのです。
顎を広げる拡大床(拡大装置)の仕組み
拡大床とは、上顎を広げるための取り外し可能な装置です。
入れ歯のような形状をしており、中央に拡大ねじが埋め込まれています。このねじを定期的に回すことで、少しずつ歯列を頬側に広げていく仕組みです。
拡大床には「急速拡大法」と「緩徐拡大法」の2種類があります。急速拡大法は2週間から2カ月程度の短期間で上顎の横幅を広げる方法で、成長期の子供の骨の成長速度を利用します。一方、緩徐拡大法は1年から2年程度の時間をかけて徐々に歯列を広げていくため、痛みの負担が少なく、頻繁に用いられる方法です。
お子さんの上顎には、成長期でまだ完全にくっついていない2つの骨があります。拡大床はこの骨が完全にくっつく前に力を加えて拡大させる仕組みで、1日に0.2mm程度の長さを2回広げていきます。1日に0.4mm程度広げていく習慣を2週間から3週間程度続け、拡大しきったら新しい骨ができて安定するまで3カ月程度装着したまま過ごします。
顎を広げると顔が大きくなるのか
「顎を広げると顔が大きくなるのでは?」という心配をされる親御さんがいます。
しかし、拡大床による治療は歯の生える位置を調整するだけなので、顔の輪郭が変わることはありません。顎の骨格そのものを大きくするわけではなく、歯列を頬側に傾斜移動させる治療だからです。
ただし、無理に力を加えて過度に拡大すると、歯を骨の外に追いやるような結果になる可能性があります。その場合、歯茎が下がって歯根が露出したり、歯の神経が死んでしまったりするリスクがあるため、適切な診断と治療計画が不可欠です。
拡大床を使った小児矯正のメリット

拡大床を使った小児矯正には、いくつかの大きなメリットがあります。
特に成長期のお子さんにとっては、将来的な歯並びの問題を予防できる可能性が高まります。
抜歯を避けられる可能性が高い
拡大床を使用する最大のメリットは、健康な歯を抜かずに矯正治療ができる点です。
歯列矯正では、歯を並べるスペースを確保するために抜歯をすることがあります。しかし、拡大床で歯列を広げることで、抜歯をせずにスペースを作り出せるのです。
抜歯は痛みを伴いますし、精神的な負担も大きいため、これを避けられることは大きな利点といえます。特に永久歯が生えそろう前の混合歯列期よりも前に治療を開始できれば、先に永久歯が生えそろうスペースを確保できるため、今後矯正治療で抜歯する必要がなくなります。
骨格と歯列を同時に整えられる
小児矯正のような幼い時期に顎を広げると、骨格と歯列のアンバランスを同時に改善できます。
上顎の成長は10歳から12歳ごろで決まってしまうため、小児矯正を始めるなら早く始めた方がよいでしょう。成長期の子供の顎の成長を利用して矯正を行うため、永久歯が生えそろってから行う成人矯正に比べて負担が少なく、理想的な歯並びへ導くことが可能です。
鼻呼吸がしやすくなる
小児矯正で顎を広げると、鼻呼吸がしやすくなる効果も期待できます。
上顎を広げることにより、空気の通り道である鼻腔も広がり、鼻呼吸がしやすくなるからです。口呼吸は病原菌が喉の粘膜から直接取り込まれてしまうため、健康のためにも良いことではありません。鼻呼吸への改善は、お子さんの全身の健康にも良い影響を与えます。
取り外しができるためストレスが少ない
拡大床には取り外しができるタイプがあり、食事や歯磨きのときに外すことができます。
矯正治療中、装置に食べ物が挟まったり、装置と接している部分の歯磨きが疎かになったりするのを不快に感じる方は多いです。自分で取り外しができるものであれば、食事や歯磨きをするときのストレスを減らすことができます。矯正治療は長期にわたるので、少しでもストレスを減らせることはメリットです。
矯正していることに気づかれにくい
拡大床は歯の裏側に装着するため、装着していても目立たず周りの人に気づかれにくいです。
また、取り外しができる拡大床の装着時間は基本的に1日8時間以上で、装着時間を守れば外出中は外すこともできます。治療中の精神的な負担を軽減できる点はメリットといえるでしょう。
拡大床を使った小児矯正のデメリットと注意点

拡大床には多くのメリットがある一方で、デメリットや注意すべき点も存在します。
治療を検討する際には、これらのリスクもしっかり理解しておく必要があります。
すべての症例に適応できるわけではない
拡大床を使用する目的は歯列を頬側に広げることです。
そのため、拡大床だけでは歯並びの細かい乱れまで改善することはできません。拡大床だけで完結できる症例もありますが、ほとんどの場合ではワイヤー矯正やマウスピース矯正と併用する必要があります。
実は、顎の骨格自体は床矯正の装置では広がりません。歯は歯槽骨という骨に埋まっており、この歯槽骨は上顎や下顎のベースとなる骨に歯列に沿ってU字型にのっかっています。歯が内側に向かって倒れているような場合、歯槽骨も歯と一緒に倒れ込んでいる場合が多く、床矯正装置を用いることで倒れ込んでいる歯とともに歯列を矯正することは可能です。しかし、床矯正はあごの骨格自体を広げる治療法ではないため、過度に行えば歯を骨の外に追いやるような結果にもなりかねません。
装着時間を守る必要がある
取り外し可能な拡大床を使用する場合、装着時間を自分で管理する必要があります。
装着時間が短いと、期待していた治療効果が得られないので注意が必要です。基本的には1日8時間以上の装着が求められ、場合によっては14時間以上、18時間以上の装着が必要になることもあります。装着時間は連続している必要はありませんが、1回あたりの装着時間は30分以上が理想的です。
紛失・破損のリスクがある
取り外し可能な拡大床の場合、適切に取り扱わないと紛失・破損する可能性があります。
紛失した場合は作り直しが必要になり、追加で費用がかかったり、治療期間が延びたりする可能性があります。そのため、拡大床を取り外したら専用のケースに保管するなどして、適切に管理する必要があるのです。自己管理に自信がない方は、取り外しのできない固定式の装置のほうがよい場合もあるでしょう。
痛みや違和感を伴うことがある
拡大床を装着して慣れるまでは、違和感があることもデメリットです。
顎を拡大するのは無理やり力を加えて行うため、多少の痛みが伴います。ただし、1週間から2週間で違和感にも慣れてくるはずです。拡大床を装着していると、発音に影響が出ることもあります。
歯茎が下がったり歯の神経が死ぬリスク
床矯正では歯列を横に広げるだけでなく、前方に広げることもあります。
この場合、前歯がどんどん前に出てきますので、歯並びはきれいになったものの、出っ歯になったり口元が突出したりという不具合が起こることも危惧されます。このようなことが起きてしまうと、せっかくお金と時間をかけて床矯正治療を行っても、むしろ悪い結果を招いてしまうということになります。
過度に拡大すれば歯を骨の外に追いやるような結果になり、歯茎が下がって歯根が露出したり、歯の神経が死んでしまったりするおそれがあります。
拡大床が適応する症例と適さない症例
拡大床を用いた矯正が適応される可能性があるのは、特定の歯並びのケースです。
すべてのお子さんに適しているわけではないため、適切な診断が重要になります。
拡大床が適応する症例
拡大床が適応する可能性がある歯並びには、以下のようなものがあります。
八重歯やデコボコの歯並び(叢生)は、顎が狭く歯が並ぶスペースが十分確保できず、歯が重なって生えてきてしまったことが原因であることが多いです。そのため拡大床によって歯列を拡大するのが適切と判断されることがあります。
出っ歯(上顎前突)も歯が並ぶスペースが十分にないことが原因になっていることがあります。並び切らなかった前歯が押し出され、出っ歯になってしまったケースです。このような場合、前から4番目あたりの歯を抜歯し、突出している部分を後退する矯正を行うこともありますが、拡大床で歯列を広げる矯正を行うこともあります。
受け口(反対咬合)は下顎が上顎よりも大きいことが原因で起こっていることがあります。この場合、上顎を床矯正で拡大して改善をはかることがあります。
深い噛み合わせ(過蓋咬合)は、奥歯の噛み合わせに原因があることが多いです。そのためジャンピングプレートなどを用い、奥歯の噛み合わせを改善することがあります。
拡大床が適さない症例
一方で、拡大床が適さない症例もあります。
下顎も上顎も普通の大きさの場合、上顎を過度に広げてしまうと下顎の骨格とアンバランスになり、噛み合わせなどにも悪い影響がおよぶおそれがあります。このような場合、歯並びがデコボコしている原因が顎にあるのではなく歯にありますので、歯を何本か少しずつ削ったり、抜歯をしたりして解決するのがよいと考えられます。
また、急速拡大装置を使っても広がるのは上顎だけであり、下顎を広げることはできないというのは歯科矯正学の基本です。下顎が普通で上顎が小さい場合や下顎が大きく上顎が普通の場合などは、上顎を下顎に合わせて広げることが可能かもしれません。しかし、すべてのケースで拡大床が最適な選択肢とは限りません。
拡大床以外の小児矯正の選択肢
拡大床以外にも、小児矯正にはさまざまな治療法があります。
お子さんの年齢や症状に応じて、最適な方法を選択することが大切です。
マイオブレース(歯列矯正用咬合誘導装置)
マイオブレースは、歯を直接動かすのではなく、悪い歯並びになってしまう「原因」をオリジナル装置やトレーニングで改善していく治療法です。
歯並びが悪くなる原因は「口腔周囲筋(舌・唇・頬の筋肉)」の機能不全です。例えば、普段何もしていない時に舌が常に歯に触れている状態を「舌癖」といい、常に歯に対して一定の力が与えられている状態になります。こんな小さな力でも歯並びは崩れてしまいます。その他、口呼吸や逆嚥下も歯並びが悪くなる原因となります。
マイオブレースは、年齢に応じたアプローチがあります。0歳から2歳では姿勢の訓練、3歳から5歳ではインファントという取り外し可能なマウスピース型装置を1日2回10分から20分使用、6歳から9歳ではマイオブレーストレーナーという装置と舌・口・呼吸の訓練を行います。家庭でのトレーニング継続が重要で、専任スタッフの指導とオリジナルアプリケーションによる支援があります。
ワイヤー矯正(唇側マルチブラケット矯正)
ワイヤー矯正は、歯にワイヤー型の装置を取り付けて行う治療です。
拡大床で顎の補正が完了しても、歯並びそのものがでこぼこしていたり、歯が回転して生えていたり、上下の噛み合わせが良くなかったりすることがあります。その場合に、仕上げの治療として行われます。
マウスピース矯正(インビザライン)
マウスピース矯正は、透明なマウスピース型の矯正装置を定期的に取り換えながら、歯並びを整える治療です。
目立ちにくく、取り外しができるため、お子さんの負担が少ない治療法です。ただし、すべての症例に適応できるわけではありません。
小児矯正を始めるべき時期と相談のタイミング
小児矯正を始めるべき時期は、お子さんの成長段階によって異なります。
適切なタイミングを逃さないためには、早めの相談が重要です。
大人の歯が生えてきたら相談を
特にお子さんの歯並びの場合、親御さんが「矯正した方がいいかな?」と思った時は、適切な治療開始時期を逃してしまっていることが多々あります。
大人の歯(前歯)が生えてきたら、治療するしないにかかわらず一度ご相談にお越しください。プロの目で診断することで、今後どのように歯が動いていくのかを予測できますので、治療が必要になるか否か、治療開始時期はいつ頃がいいかなどをお話しさせていただきます。
上顎の成長は10歳から12歳で決まる
上顎の成長は10歳から12歳程度で決まり、顎を大きくするならこのタイミングで治療をするしかありません。
こういった理由から幼い時期から小児矯正を通じて顎を広げる必要があるのです。永久歯が生えそろう前(混合歯列期)よりも前に治療を開始できれば、先に永久歯が生えそろうスペースを確保できるので、今後矯正治療で抜歯する必要がありません。
小児矯正の費用と治療期間の目安

小児矯正の費用と治療期間は、症状や治療内容によって大きく異なります。
事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
I期治療とII期治療の費用
一般的に子供の矯正治療は2段階で行われます。
前半の治療のことをI期治療といい、後半の治療のことをII期治療といいます。矯正治療は一定の期間と費用が掛かりますので、可能であればI期治療で終了した方が好ましいです。期間も短く済み、費用もそれほど掛かりませんので。
個人の症状や治療内容などによって異なりますが、約22万円から110万円(税込)ほどかかります(自費診療)。予防矯正(I期治療)の料金は44万円、本格矯正(II期治療)の料金は77万円から110万円程度です。
治療期間の目安
拡大床を使った治療期間は、急速拡大法で2週間から2カ月程度、緩徐拡大法で1年から2年程度です。
その後、新しい骨ができて安定するまで3カ月程度装着したまま過ごします。I期治療全体では1年から3年程度、II期治療では2年から4年程度の期間がかかることが一般的です。
小児矯正のリスクと副作用
小児矯正には、いくつかのリスクや副作用があります。
治療を始める前に、これらをしっかり理解しておくことが重要です。
装置装着後の違和感や痛み
矯正歯科装置を付けた後しばらくは違和感、不快感、痛みなどが生じることがありますが、一般的には数日間から1週間、2週間で慣れてきます。
治療期間の延長の可能性
歯の動き方には個人差があり、予想された治療期間が延長する可能性があります。
矯正歯科装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院など、矯正歯科治療には患者さんの協力が必要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。
むし歯や歯周病のリスク
治療中は矯正歯科装置が歯の表面に付いているため食物が溜まりやすく、また歯が磨きにくくなるため、むし歯や歯周病が生じるリスクが高まります。
したがってハミガキを適切に行い、お口の中を常に清潔に保ち、さらに、かかりつけ歯科医に定期的に受診することが大切です。
歯根吸収や歯肉退縮
歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることや歯肉がやせて下がることがあります。
ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
治療後の「後戻り」
動的治療が終了し装置が外れた後に保定装置を指示通り使用しないと、歯並びや噛み合せの「後戻り」が生じる可能性があります。
きれいに並んだ歯並びを維持するための治療が必要です。歯並びというのは、永久的なものではありません。歯は、加齢変化で徐々にでこぼこがでてくるものなのです。アンチエイジングの意味でも、きれいに並んだ歯をずっときれいに維持するためには保定装置を用いたメインテナンスが必要になります。
まとめ〜顎を広げる小児矯正は慎重な判断が必要
顎を広げる小児矯正は、適切なタイミングと症例に対して行えば、お子さんの将来的な歯並びを大きく改善できる治療法です。
拡大床を使った治療には、抜歯を避けられる、骨格と歯列を同時に整えられる、鼻呼吸がしやすくなるといったメリットがあります。一方で、すべての症例に適応できるわけではなく、装着時間の管理や紛失・破損のリスク、痛みや違和感といったデメリットも存在します。
重要なのは、お子さんの顎の大きさや歯並びの状態を正確に診断し、本当に拡大床が必要かどうかを見極めることです。下顎も上顎も普通の大きさの場合、上顎を過度に広げてしまうと下顎の骨格とアンバランスになり、噛み合わせなどにも悪い影響がおよぶおそれがあります。
大人の歯が生えてきたら、治療するしないにかかわらず一度専門医にご相談ください。プロの目で診断することで、今後どのように歯が動いていくのかを予測でき、治療が必要になるか否か、治療開始時期はいつ頃がいいかなどを判断できます。
お子さんの歯並びは、将来の健康や自信にも大きく影響します。適切な情報をもとに、慎重に治療方針を決めていきましょう。
お子さんの歯並びが気になる方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。早めの診断が、お子さんの将来の笑顔を守ります。






